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DIALOGUE

TALK WITH vol.7
―早田宏徳×芝山さゆり×中谷哲郎
0から1への道程(前編)―

人が暮らす最小単位の社会であり、家族の“巣”でもある住まい。TALK WITHでは、そんな心地よい住まいの先に広がる、よりよい暮らしに向かって走り続けるウェルネストグループの銘々が対談を行い、最良の未来へと繋ぐヒントを見つけていきます。
第7回となる今回は、ウェルネストホーム創業者の早田宏徳と会長の芝山さゆり、社長の中谷哲郎による鼎談です。日本の家づくりはどうあるべきなのか。なぜ理想の家がつくれるのに、つくられていないのか。2012年に前身の低燃費住宅を創業して以来、「よい家をつくる」ことを使命としたウェルネストホーム、まちづくりや開発事業に踏み込むウェルネストR&Dと、3人は妥協なき事業に邁進してきました。
前編ではまず、約20年来の付き合いという3人の軌跡を振り返ります。それぞれの出会いや、ドイツでの原体験について。

創業者との出会い、新築とリフォームへの後悔

早田:
ウェルネストホームに社名を変更してから9年目ですね。前身の会社低燃費住宅の創業から数えると14年目。毎月こうして会って、オンラインでは週に何回も話している3人ですが、いちばん変わったのはだれでしょうね。

中谷:
芝山さんじゃないですか?

早田:
たしかに。ピアニストを目指したり、小学校の音楽教員をしたり、ずっと住宅業界とは無関係でした。それがいまではエヴァンジェリストに変貌。ウェルネストホームの家のよさを伝えたいと、だれよりも思ってくれています。

芝山:
早田さんとの出会いが衝撃的でしたからね。私が三重県で町おこしをしていた2007年、仙台のセミナーで登壇者同士として出会ったのがきっかけ。本人の人柄の印象が薄らぐくらい、強烈な内容のセミナーでした。

早田:
失礼な話ですよ(笑)。僕は芝山さんのことをよく覚えていますよ。だれよりも気を配って動いている、控えめな女性というのが楽屋での第一印象。そうしたら登壇して、1500人を前に声を張り上げているのだから驚かされました。

芝山: 
私も早田さんのセミナーに、私の家の概念が壊されたような気がしました。「よい家ってね、本物の木と土と石と紙でできているんだよ」と。当時、私は自分の家を建てたばかり。たしかに木造だし、御影石もあったし、使っている素材は早田さんの話と同じ。でも、早田さんが言う「よい家」って単に意匠のことを指しているわけじゃないんだと、感覚的に理解できました。

中谷:
イミテーションばかりですからね。日本の住宅って。

早田:
プラスチックとか、鉄とか、早く壊れるような新建材ばかり。いかに昔の日本建築がすばらしいかって話ですよ。

芝山:
それで半年後、実際に私の家へ来てもらったら、早田さんからひどい言われようでした。新築であるにもかかわらず。

早田:
「よく建てたね、こんなに高いお家を」って言いましたよね。日本は新築至上主義というか、スクラップアンドビルドの悪しき慣習があるから。

芝山:
そうです(笑)。大げさな話ではなくて、本当に言われました。住宅業界とは無関係だったから、なにも知識がないまま、知り合いの工務店に建ててもらったのです。そうしたら光熱費だけで年に100万円もかかるようになり、引っ越した途端に娘たちの体調が悪化。小学4年生だった長女は喉の痛みを訴えるようになり、2年生だった次女は咳が止まりませんでした。耳鼻科に行っても原因不明。私の友人たちにもその工務店を紹介していたので、娘や友人への罪悪感がありました。

早田:
その工務店も知らなかったとはいえ、日本の基準は低いですからね。ウェルネストホームなら絶対にしないようなやり方だったのだと思います。

芝山:
家に入るなり、早田さんにヒアリングされたことも覚えています。「引っ越した日のことを教えて」「窓は閉まっていた?」「どんな匂いがした?」「最初になにをした?」って。聞かれること、指摘されることが全部的確。このときのショックが原体験かもしれません。
早田:
中谷さんと最初に会ったのも、イベントの相談でしたよね。工務店経営者向けの業界紙の編集長として、全国を飛び回っていたころ。

中谷:
ええ、2004年ですね。この人に会うべきだと聞いて、いざ早田さんに連絡してみたら、なんて言ったか覚えていますか? 「会ってもいいですけど、東京駅で新幹線に乗る前の15分しか時間がありませんよ」って(笑)。

早田:
言いました(笑)。僕がまだ独立前で、宮城の住宅会社に勤めていたころ。仕事はちゃんと数字を出すから、自分が本当にやりたいこと、環境のための活動はやらせてほしいと社長に直談判。週に何回も東京に出ては、講演や打ち合わせをしていたころです。

中谷:
そんな人は住宅業界で聞いたことがありません。

芝山:
中谷さんだって、業界紙をやりながら、全国各地でイベントを開催していましたよね。職人の地位を向上するために。

中谷:
僕は実家が山口県にあったのですが、リフォーム中に父が亡くなりました。工務店の融通がきかず、器用だった父が代わりに作業しようと屋根に上がったら、足場から落ちてしまったのです。

早田:
ありえない話ですよ。現場に施主を上がらせるなんて。

中谷:
だから、職人の意識を変えなければいけないと思いました。でも、それには職人を取り巻く環境を変える必要があるし、職人不足の状況も改善しなければいけない。そう思って活動していたタイミングで、早田さんからドイツの話を聞いたのです。

早田:
「ドイツにはマイスター制度があるよ」「職人の質が高いうえに、尊敬すべき仕事って見なされているんだよ」って。

中谷:
驚きました。日本だと、職人は……蔑ろにされているじゃないですか。家づくりは技術のいる難しい仕事なのに、世の中の見られ方にはギャップがある。そこに違和感をずっと持っています。職人を、子どもや孫が継ぎたいと思える仕事にしていきたいって、早田さんとずっと話していましたよね。

変わらない街、揺らがない道のり

芝山:
早田さんから聞くドイツの話は私もびっくりしました。職人の親方が、医者や弁護士と同じように尊敬されるマイスターという称号なんて、日本では考えられません。

中谷:
芝山さんが最初にドイツへ行ったのはいつですか? 

芝山:
2009年でした。早田さんと仕事をするようになると、いかにドイツがすばらしいか、あまりに聞かされるものですから。私はそもそも海外旅行が苦手なのに(笑)。

早田:
いざ行ってみたら、どうでしたか?

芝山:
フランクフルト空港に着陸する前から圧倒されてしまいました。飛行機から見た街並みが、おとぎ話かと思うくらいにきれいで、そこに住んでいる人の暮らしが上空からでもありありと感じられました。屋根の色も形状も統一感があり、景観法で守られているんだろうなと実感。私の地元、三重県伊勢市にはおかげ横丁がありますが、あれが国の規模で広がっているような印象を受けました。

早田:
ヨーロッパの国々は、街並みの価値をちゃんと理解していますよね。

芝山:
成田を離陸したときは、日本の街並みを見ても気にも留めませんでした。当たり前の風景だと思っていたので。陸屋根、和モダン、洋風と建物がバラバラの街並み。それがいざ統一感のあるきれいな街並みと見比べた瞬間、腑に落ちたんです。早田さんが言いたかったことはこれなんだと。

中谷:
早田さんから理想のように聞いていた話が、言葉どおりに実現されていますよね。僕がドイツへ行ったのは芝山さんの2年後でしたが、そのことに感動したし、衝撃を受けました。理にかなっているというか、シンプルでわかりやすい社会というか……こういうところで暮らせたら幸せだろうなと思いました。住みたいあまり、帰るときには涙が出ましたからね、本当に。

芝山:
街並みに統一感があるということは、家が何十年も、何百年も保たれているということ。だから、家によっては「since 1870」なんて建築年が彫られているし、長持ちする家を建てられる職人は本当に尊敬されています。医者が人の身体を診て、弁護士が人を法的に守るように、家は人の健康と精神的な安定を維持し、資産・財産を形成するためのもの。だからその認識が、国民一人ひとりに浸透しているように思いました。

早田:
本来、家って自分のためだけに建てるものではありません。だれのためかというと、子どもや孫のためなんです。自分が住宅ローンを払い終わったらおしまいではなく、子どもや孫が受け継ぐことで、長いスパンで恩恵を得られるような家。そういうものを日本に増やしていかないといけませんね。

芝山:
早田さん、ドイツから日本に帰る飛行機で、私になんて言ったか覚えていますか? どうして連れてきてくれたのか、私が聞いたとき。

早田:
なんでしょう、いろんな話をしていましたから……。

芝山:
「僕はこういう街をつくりたい」ってはっきりと言っていました。家じゃなくて街? 街ってつくれるの? と私はびっくりしたんです。

早田:
その気持ちはいまもまったく変わっていませんよ。ああいう家が並ぶ街こそ持続可能だし、サステナブル。当時の僕らのキャッチコピーも「未来の子どもたちのために」でした。それにつづけるフレーズが「やがてこの子を守る家」。

中谷:ええ、ずっと変わりませんよね。早田さんと芝山さんが前身の会社を創業したのが2012年。僕も同年に独立して、住宅事業とは別の形でふたりと仕事をするようになり、芝山さんが社長になった2016年に取締役としてジョイン。翌年からウェルネストホームに社名変更。本当にいろいろなことがあったけど、言っていること、やっていることは、昔からそんなに揺らいでいないと思います。

早田:
まあ……それがいけないのかもしれませんね(笑)。

#後編につづく
#高性能住宅 #街づくり #会社経営 #ドイツ #職人 
PROFILE
株式会社WELLNEST R&D 代表取締役
株式会社WELLNEST HOME 代表取締役創業者
早田宏徳

左官職人からキャリアをスタートさせ、約15年間住宅会社に勤務。延べ3000件を超える家づくりに携わる。2008年にドイツへ渡り、世界水準の住宅性能に衝撃を受ける。日本の住宅業界の変革を志して講演活動を行う最中、東日本大震災をきっかけに命を守る、環境に配慮した住宅で社会を変えるため、2012年ウェルネストホームの前身となる低燃費住宅を起業。現在は独自開発のAIを搭載したHEMS(Home Energy Management System)や、脱炭素建築の集合住宅による、持続可能なまちづくりに携わるウェルネスト R&Dの代表も兼任している。

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PROFILE
株式会社WELLNEST HOME 取締役会長
芝山さゆり

小学校の音楽教師、専業主婦を経て、娘の夢を叶えるために起業。独自の教育論で人財育成や女性の起業支援を手がける。2017年、未来の子どもたちのために、住宅を通して持続可能な社会をつくるウェルネストホームの社長に。試しに住める“試住体験”を導入するなど、女性目線で事業を展開し、6年間で業績を400%アップさせ70億円企業に成長させる。2024年、会長に就任。2024年よりウェルネスト R&Dの専務取締役も兼任し、最新の環境配慮型リゾート事業のプロデュースや、再生可能エネルギーの活用活性化のための脱炭素改修事業の普及に努める。

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PROFILE
株式会社WELLNEST HOME 代表取締役社長
中谷哲郎

大学卒業後、ジャーナリズムの道へ。ベンチャー雑誌「月刊ビジネスチャンス」、「週刊ビル経営」「週刊全国賃貸住宅新聞社」など多誌に携わる。リフォーム産業新聞社に異動後、リフォーム産業新聞、工務店新聞の取締役編集長に就任。2012年に退社し、グループの活動に参画。株式会社日本エネルギー機関 代表取締役/株式会社低燃費住宅ネットワーク代表取締役を兼任。

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