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DIALOGUE

TALK WITH vol.3
―中谷哲郎×早田宏徳 最良の未来へ(前編)―

人が暮らす最小単位の社会であり、家族の“巣”でもある住まい。TALK WITHでは、そんな心地よい住まいの先に広がる、よりよい暮らしに向かって走り続けるウェルネストホームの銘々が対談を行い、最良の未来へと繋ぐヒントを見つけていきます。
 
第三回目となる今回は、ウェルネストホーム代表取締役社長 中谷哲郎、代表取締役創業者 早田宏徳による対談。共に、住宅業界で奮闘していた若かりし頃に出会い、20年という長い道のりを歩んできたふたり。
住宅業界への問題意識や職人への待遇改善、環境・エネルギー問題、持続可能な社会…。
さまざまな課題に直面しながらも、変わらずにずっと思い描いてきたのは「世の中を、地球をよりよくしたい」ということ。
想いで繋がり、想いが広がる――
ふたりのこれまでの歩みと今、そして未来について、現在プロジェクトが進行しているニセコの地で、雄大な自然を背景に語り合いました。

ふたりの出会いと、想いの共鳴

早田:
私たちの出会いは、もうかれこれ20年ぐらい前になりますね。

中谷:
忘れもしない、仙台駅の喫茶店で。私が住宅専門の業界誌で編集長をしていた時に会ったのが最初でしたね。当時お互い31、32歳ぐらいでした。
 
早田:
私もまだサラリーマンとして、仙台の工務店に勤めていた時ですね。仙台で中谷さんたち新聞社の主催で住宅リフォームの大きなイベントをやるという時に、私の勤めていた会社が出展していたんです。そんなきっかけで、取材してくれたんですよね。
中谷:
早田さんの勤めていた会社は、仙台では一番大きな工務店だったので、一度社長さんに挨拶に行ったんです。そしたら、その場で「詳しい話は君と同じ歳ぐらいの早田っていうのがいるから話してくれ」と。
それで、早速会うことになったのですが、早田さんは当時からものすごく多忙な人で。これから東京へ行かなきゃいけないというところで、15~20分ぐらい話して、その後新幹線に飛び乗っていきましたよね(笑)。
 
早田:
当時は営業本部長の仕事をしながら、セミナーで講演をしたり、東北電力さんとイベントをやったり、発電システムのつながりでご縁ができて、東京で開催される音楽フェスに関わったりなど。色々やっていましたね。
 
中谷:
すでに早田さんはものすごく活動的な人で。一工務店の枠組みから外れて各地を飛び回っていて、この人は一体何をしているんだろうって(笑)。興味津々でした。
早田:
工務店の営業本部長としてセールスの基盤はつくっていたし、若手の育成もできていたので時間があったんです。その時間を有意義に使って、朝8時に仙台でミーティングして、10時ぐらいには東京へ行って4~5時間人と会ったり、いろいろなところへ出向いて、また仙台に帰る。そんなことをしていました。
 
中谷:
情報発信をするような仕事も当時からされていたので、早田さんと話しているとすごく面白かったんです。
 
早田:
当時の中谷さんの印象は、自分とほぼ同じ歳で、いくつものメディアの編集長をやりつつ、大きなイベントを束ねて、とにかくすごいなとリスペクトしていました。その後イベントをきっかけに、ちょこちょこ飲みにいくようになって。話をしていると、私が当時住宅業界に抱いていた課題を中谷さんも感じていたんですよね。
 
中谷:
地方では地元の工務店が地元の人の家をつくって、直して、という昔ながらの文化があったのですが、大手ハウスメーカーが台頭してからは工務店の仕事が減少傾向にありました。それに対して、私はすごく違和感を持っていたんです。だから地元を盛り上げるイベントをやったりなど、活動していました。
 
早田:
私も職人上がりの人間なので、そういう業界に対する課題感とか、職人さんを大事にしたいという中谷さんの熱い想いにとても共感したのを覚えています。そういう話の中で、ドイツにはマイスター制度というのがあって、伐採工や大工みたいな職人がハイレベルな仕事として扱われている、といったことを情報交換したりして。
 
中谷:
そんな繋がりでもう20年。家族よりも長い付き合いになっちゃいましたね。
 
早田:
長いですね。私はそれからドイツ在住の環境ジャーナリストの村上(敦)さんと出会って、ドイツでいろいろな情報を得て、それを中谷さんに毎回報告していた。住宅や環境のことを一生懸命やっているおもしろそうな人を中谷さんに引き合わせて、情報発信という点から応援してもらおうと思っていました。
中谷:
早田さんからドイツの話をずっと聞いていて、一度この目で現地を見たいという思いが募っていった2011年の冬。ようやく私も現地に行くことができました。
 
早田:
一週間を使って、村上さんとアテンドしてヴォーバン住宅地とかいろんなところを巡りましたね。
 
中谷:
ずっと話に聞いていた街や住宅の在り方、取り組みを目の当たりにして。もう、感動して、取材してと盛りだくさんの一週間でした。帰りにフランクフルト空港で飛行機に乗るときは、本気で帰りたくなくて涙したり…。
 
早田:
私と村上さんはその後も引き続き視察で他の地域も巡る予定でしたからね。
 
中谷:
なんで帰らなきゃいけないんだ、っていう悔しさ半分。残り半分は、現地で見て、触れて、体験したことで、改めて日本の住宅業界はまだまだ世界基準ではないという現実を突きつけられたショックや焦り、脱力感。そういう感情が入り混じった涙でしたね。どうにかしなくちゃ、ますますそんな想いが心の中で大きくなっていきました。

エネルギーづくりと、フラットな関係性

中谷:
ドイツ視察が最後の決め手となって、その翌年の2012年に私は独立。日本エネルギー機関(JENA)という会社を立ち上げました。そこには早田さんと村上さんも加わってもらって、国の省エネを推進するためにメガソーラー(大規模発電容量を持った発電設備)をつくったりとか。

早田:
メガソーラーのつくり方も、環境に配慮した理念を持ってね。
 
中谷:
わざわざ緑のある山を切り拓くことは一切せずに、人間の住むことができない、入植できない土地を地権者から購入して、そこにメガソーラーをつくるということをポリシーに取り組んでいました。
 
早田:
ヨーロッパでは、それが当たり前なんですけどね。残念ながら、日本では利益を重視する施策で、環境を犠牲にしてしまっているところが少なからずあります。だから私たちがつくっていたのは “正しいメガソーラー”だったということです。
 
中谷:
荒地になった土地や閉鎖後のゴルフ場の跡地とか。今まで活用されていなかった土地をちゃんと活用する、そうやって環境に配慮した上で、電力を生み出していく。2016年ぐらいまでに十数箇所つくりましたね。
 
早田:
中谷さんはジャーナリストなので、情報発信が得意な人。ドイツの村上さんも同じく環境ジャーナリストだから、情報発信をメインに。じゃあ私はというと、やっぱり事業家であるべきだなと。事業を運営していくための資金調達や理念を世に広げていく活動を始めました。
中谷:
それぞれが、それぞれの得意な分野で。
 
早田:
ウェルネストホームの前進となる会社を立ち上げた後は、仲間も加わって日本エネルギーパス協会を立ち上げたり、中谷さんにウェルネストホームの営業本部長になってもらったりと、どんどん繋がっていきました。だから、中谷さんは中の人でもあり、外の人でもある。私たちの関係性は、あくまでもフラットですよね。
 
中谷:
役割分担をしながら、それぞれがそれぞれの会社で。でも、みんなで同じチームという繋がり方です。
 
早田:
でもやっぱりお互いの根底にあるのは、日本をよくしたいという想い。これに尽きますね。

未来のことを考えて、今、思うこと

早田:
ウェルネストホームが東京へ進出することになった2017年に、私から相談して中谷さんには営業本部長として合流してもらいました。あれがもう5年前ですね。どうですか?今何か考えていることとかありますか。
 
中谷:
ここ最近は、ずっとウェルネストホームの未来を考えています。
 
早田:
芝山さんも含めて、3人でよく話していますね。
中谷:
戸建住宅のシェアは、これから先も伸ばしていくことはできる。快適で、住みやすく、環境にも配慮した家をもっと世の中に広めていきたいという想いは変わらずあります。しかし、私たちの理念をしっかりとお伝えするには、お客様お一人おひとりともっとしっかり向き合うことが必要かもしれませんね。
 
早田:
そうですね、私も広げることの難しさを日々感じています。20年前ぐらいから広がったローコスト住宅を例に、“安いものが正義”みたいな時代になってしまった。ファストファッションもファストフードも同じです。でも、その安さの裏では、きっと誰かが泣いているはずですから。
 
中谷:
例えて言うなら、一流の寿司職人がカウンター5席でやっている店を、拠点展開するために回転寿司チェーンのような仕組みを当てはめてしまうと、おかしくなる。売っているものは、もっとハイクオリティで、想いの詰まったものなのに。
 
早田:
そうですね。一流の寿司は握る人の人柄や技術、考えがあってこそいいのに、ただ握る人や店だけ増やしてもね。これは永遠のテーマかもしれません。
私たちが超高性能な住宅をつくっているのは、未来の子ども達のことを考えて、持続可能性を大事にしているから。そう考えると“広がっていく”ことはあっても“広げる”ってことは必ずしも正解じゃないかもしれない。
 
中谷:
私たちの理想とする“在り方”を探っている最中ですよね。ウェルネストホームの家や考えを広めつつ、理念までしっかり浸透していけるような。
 
早田:
意思や理念を共有してくれる人が増えたら、社会は確実によくなっていくはず。
思い描いている理想になかなかすぐに辿り着かないのは、もどかしいですね。
 
中谷:
考えや想いを伝えていって、それを受け取った人の中から、深く共感してくれる人が家を買ってくれる。そんなふうに一つひとつ積み重ねていくと、その先には必ず“広がり”が出てくると思います。

集合住宅とまちづくり、新たなステージへ

中谷:
早田さんの今、一番やりたいことは?
 
早田:
戸建住宅領域については、ウェルネストホームの理念、想いを受け継いでくれる人たちにどんどん任せていきたいと思っています。
でもその一方で、日本全体をよりよくしていくために、想いを多くの人に伝える必要がある。だから、今、多くの人に理念を共有できる賃貸住宅にも注力しています。それもただの賃貸ではなく、コミュニティごと形成できるようなまちづくりも含めた集合住宅という形で。
 
中谷:
私たち経営陣の中で、そこは共通意見ですよね。集合住宅じゃなく、まちづくりからというところも。
早田:
家はやっぱり単体では機能しません。その周りに人やコミュニティがあるからこそ、食べる場所やものを買う場所がつくられていく。人が集まってナンボです。ちなみに、コンビニの新規出店の基準となる最少人数は2000人と言われています。この数千人単位の人の塊をどうつくり出せるかがポイントですね。
 
中谷:
まさにドイツのコンパクトシティの考え方。
 
早田:
集合住宅は私のミッションだと思っているので、ここから5~10年はコミットしたいと思っています。戸建住宅の方はどんな形で次世代にバトンタッチしていくか、浸透させて、広がっていくようにするか、ですかね。
 
中谷:
そうですね。そういう指標で行くと棟数とか売上みたいな「数字」にはとらわれなくていいのかもしれない。そこを追い求めずに、浸透していくやり方を模索してきたいです。
 
早田:
物理的に私たちの理念を体験できる場所、戸建に限らず、集合住宅とか、もしかしたら非住宅もそうかもしれない。庁舎とか商業ビル、もっとそういう方向の可能性を探っていくこともできる。
 
中谷:
みなさんが私たちの理念や考え、想い、そして空間に触れられる機会を、今後もっと増やしたいなという思いはありますね。
後編では、未来の住まいとウェルネストホームの目指すもの、これからのあり方について探っていきます。
PROFILE
株式会社WELLNEST HOME 代表取締役社長
中谷哲郎

大学卒業後、ジャーナリズムの道へ。ベンチャー雑誌「月刊ビジネスチャンス」、「週刊ビル経営」「週刊全国賃貸住宅新聞社」など多誌に携わる。リフォーム産業新聞社に異動後、リフォーム産業新聞、工務店新聞の取締役編集長に就任。2012年に退社し、グループの活動に参画。株式会社日本エネルギー機関 代表取締役/株式会社低燃費住宅ネットワーク 代表取締役を兼任。

WEB
PROFILE
株式会社WELLNEST HOME 代表取締役創業者
早田宏徳

佐官職人からキャリアをスタートさせ、約15年間住宅会社に勤務。延べ3000件を超える家づくりに携わる。2008 年にドイツへ渡り、日本の更なる住宅業界の変革を志して2009年住宅会社を退社。以降、全国で年間200回を超えるセミナー、講演活動を業界向け、エンドユーザー向けに続けている。

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