Wellnest Home

VISION

未来は僕らの家の中
―エネルギーと住宅―

株式会社 WELLNEST R&D 代表取締役

株式会社 WELLNEST HOME 代表取締役創業者

早田宏徳

家の中にいるとき、壁や窓を触ってみてください。薄いでしょうか、それとも厚いでしょうか。気密や断熱の高さは、暮らしの快適さに影響します。さらに直結するのがエネルギー効率。余計なエネルギーを逃さず、効率的にエネルギーを利用できる住宅こそ、持続可能な社会に求められるのではないでしょうか。
ウェルネストホーム創業者の早田宏徳は、京都議定書が採択されたのと同じ1997年から、一貫して高気密・高断熱住宅の重要性を訴えています。なぜならそれが快適かつ省エネルギーであり、地球に対して果たすべき役割だから。エネルギーについて考えをめぐらすとき、早田はまず生まれ故郷について口を開きました。

長崎に生まれた人間として

間もなく戦後80年の節目を迎えますね。
じつは私、長崎出身なんですよ。1945年8月9日、人類史上2回目となる原子力爆弾が投下された土地。広島もそうだと思いますが、子どものころから繰り返し教えられてきました。原爆がいかに恐ろしいものか。戦争がいかに愚かなことか。
僕は長崎に生まれた人間として、原子力も戦争も大嫌いです。
なぜ第二次世界大戦が起きたのか、さまざまな解釈がありますが、そのひとつにエネルギーの奪い合いが挙げられると僕は考えています。
日本はエネルギー資源に恵まれた国ではありません。帝国主義の下、植民地を広げていましたが、石油の9割以上を輸入に依存していました。しかし1941年にアメリカやイギリス、オランダなどが日本を含む侵略国への石油の輸出を禁止。日本は大打撃を受け、同年には太平洋戦争へ踏み切り、インドネシアなど南方の資源地帯の占領を目指したのです。
第一次世界大戦にも同じことがいえます。ドイツとフランスの間で、石炭の奪い合いがひとつの発端となりましたから。エネルギーと争いというのは密接な関係にあるんです。 


初めてドイツへ行った2007年に現地でいわれました。
「原子力爆弾の恐ろしさを知るはずの日本人が、なんで原子力発電所をあんなに推進するの? 事故があったらどうするの?」
本当にそうですよね……僕は笑ってごまかすことしかできませんでした。
その2年後、自民党から民主党へ政権交代がありましたね。鳩山由紀夫内閣です。どんなエネルギー政策が打ち出されたか覚えていますか? 切り札にされたのが、まさかの原子力エネルギー。2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で25%削減するという数値目標に対し、原子力発電所の増設や稼働率の向上が推し進められました。
「あれ?」ってなりますよね。ドイツで投げかけられた言葉が鮮明に思い出されました。

たしかに原子力発電所はCOを排出しません。火力発電所のように化石燃料を燃やすわけではありませんから。でも、じつは想像を絶するほどに膨大なエネルギーを海に放出していることを知っていますか?
たとえば100万kWの原子力発電所の場合、毎秒7tの海水を取水しては温度を7℃上昇させています。もう一度いいますよ。たった1秒間で、7tの水の温度が7℃も上がるんです。これって恐ろしいことだと思いました。それまでは原子力爆弾のイメージから、なんとなく原子力発電所を敬遠していましたが、この事実を知ったとき、僕ははっきりと恐怖を感じたのです。
7℃上昇した大量の温廃水は海に戻されます。24時間365日、この繰り返し。学者によると、海の水は膨大にあるので温廃水の流入に悪影響はないそうです。しかし、現に地球上の海水温がどんどん上昇しているのは、発電所の仕組みと無縁ではないと僕は思います。それが地球温暖化の深刻化にもつながり、台風の激甚化や降水量の増加などをもたらしているのではないでしょうか。

省エネルギーの社会に向かって

日本はエネルギー資源が限られた国です。OECD(経済協力開発機構)の加盟国のなかで、エネルギー自給率はワースト2位とされているくらい。
だからといって原子力エネルギーに依存しても、クリーンなのはCO排出に限ったこと。なにより大きな恐怖がつきまといます。実際、2011年3月11日、あれだけ恐ろしい事態が引き起こされましたよね。
エネルギー資源が限られているのはどうしようもない。でも、原子力発電所はこれ以上いらない。そこで期待されているのが、再生可能エネルギーです。

再生可能エネルギーとは、自然界に存在するエネルギーを指します。太陽光や風力、地熱、潮汐などがそうですね。どこにでもあり、繰り返し利用でき、COを排出しないなどの特徴が挙げられます。

ドイツのように、すでに自然が損なわれた場所に限定し、メガソーラーによる太陽光発電を推進するのも一案でしょう。空港や炭鉱の跡地とか、畑作ができない土地とか。自然を破壊しないことを前提にしながらでも、自然エネルギーはもっと活用できる余地があるように思います。
ただ、僕が声を大にしたいのは、エネルギーを生み出すのも大切だけど、まずはエネルギーの消費を少なくした社会にしていこうっていうことなんです。新しいエネルギーを生み出したり、発電所を増やしたりするよりも前に、余分なエネルギーを減らすことのほうがずっと簡単で、すぐに取り組めるじゃないですか。

エネルギーの消費を少なくすると聞いて、レジ袋の削減を思い浮かべる方もいるかもしれませんね。2020年からプラスチック製買い物袋が有料化されました。最近、レジ袋をもらっていますか? 3円や5円程度なのに出費が惜しまれる瞬間、僕もあります(笑)。ゴミ袋として活用するためにもらっておきたい日もあるでしょう。
でも、レジ袋1枚を我慢することで削減できる CO排出量って、ごくわずかなんですよ。
その比にならない膨大な量のCOが、じつは普段の暮らしから排出されています。冷暖房をつけたり、冷蔵庫を電源につなげたり、お風呂に入ったり。普通の生活をしているだけでも、COの排出とは無縁ではいられません。ひとりの生活からの年間CO排出量は、なんとレジ袋50万枚分に換算できます。
だからこそ、省エネルギーの家電や、高気密・高断熱の家が必要なんです。普段の暮らしから、エネルギーの消費を効率よく、大幅に減らすことができるんですから。

エネルギーを減らすために住宅を

僕らウェルネストホームは住宅会社です。省エネルギーの社会を実現するために、どんなことができるか。それは少ないエネルギーで暮らせるような、高気密・高断熱の家を増やしていくことにほかなりません。
窓や壁を厚くしましょう。日本の木を使いましょう。天然乾燥した木材を使いましょう。太陽光発電システムや蓄電池を導入できるように備えておきましょう。大切な子どもたちや孫のために、100 年後だって長持ちするような家を目指しましょう。
30年近く、僕は省エネルギーの重要性を発信しつづけてきました。縁があって、1997年から高気密・高断熱の家を建築するようになりましたが、これは温室効果ガスの排出量削減を目指した京都議定書の採択と同じ年。最近では、企業に留まらず、学校などにメッセージを届ける機会をいただくようになりました。

あれは小学5年生に授業をしたときですかね。子どもたちに質問しました。
ここにバケツがふたつあるとしましょう。ひとつは、小さな穴がたくさんあるバケツA。もうひとつは、穴を絆創膏で塞いだバケツB。このふたつに蛇口をひねって水を注ぐとどうなりますか? Aは水が漏れるので満杯になることがありません。Bは絆創膏があるおかげで満杯になります。さて、どちらのバケツがほしいですか?

全員、Bがいいと答えました。当然ですよね。でも、これが家を建てる話になると、Aのような家でも気にしない人ばかり。隙間が多く、気密や断熱が低いために、快適でない家がたくさん建てられています。
子どもたちはみんな笑っていましたよ。「大人なのにおかしいね!」って(笑)。
子どものほうがずっとすなおですよね。これからの30年も、僕は同じことを発信しつづけます。高気密・高断熱の重要さを理解してもらえば、あとは僕ら住宅会社の出番。それがめぐりめぐって、子どもや孫の世代のため、地球のためにだってなるはずですから。

 

#省エネルギー #再生可能エネルギー #原子力発電 #地球温暖化 #高性能住宅
PROFILE
株式会社WELLNEST R&D 代表取締役
株式会社WELLNEST HOME 代表取締役創業者
早田宏徳

左官職人からキャリアをスタートさせ、約15年間住宅会社に勤務。延べ3000件を超える家づくりに携わる。2008年にドイツへ渡り、世界水準の住宅性能に衝撃を受ける。日本の住宅業界の変革を志して講演活動を行う最中、東日本大震災をきっかけに命を守る、環境に配慮した住宅で社会を変えるため、2012年ウェルネストホームの前身となる低燃費住宅を起業。現在は独自開発のAIを搭載したHEMS(Home Energy Management System)や、脱炭素建築の集合住宅による、持続可能なまちづくりに携わるWELLNEST R&Dの代表も兼任している。

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