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DIALOGUE

TALK WITH vol.2
―早田宏徳×道脇裕 未来に残す「もの」―

人が暮らす最小単位の社会であり、家族の“巣”でもある住まい。TALK WITHでは、そんな心地よい住まいの先に広がる、よりよい暮らしに向かって走り続けるウェルネストホームの銘々がゲストを対談相手に迎え、最良の未来へと繋ぐヒントを見つけていきます。
 
ウェルネストホーム代表取締役創業者 早田宏徳をホストにお届けする第2回目の対談。ゲストは、世界に例を見ない「ゆるまないねじ」を世に送りだした発明家、株式会社NejiLawの道脇裕さんです。メディアでの対談を機に出会い、親交を深めるようになったふたり。その心をつなげているのは、「ものづくり」への飽くなき想いであり、未来によりよい社会を残したい、という信念です。
ものがあふれ、持続可能な在り方が求められる現代において、社会的責任が高まっているものづくり業界。その中に身を置くふたりは、ものづくりを通してどんな “豊かさ” を社会に描こうとしているのか。NejiLawを訪れた早田と、迎える道脇さん。「つくり手」同士、本音の対談が始まります。

持続可能とは何か、自分の答えを出してみる

早田:
振りかえると、テレビのドキュメンタリー番組が道脇さんを知ったきっかけでした。小学校を自主退学して、発明や研究に没頭するエピソードに心を奪われて。一緒に観ていた当社の芝山社長と「なんて頭のいい人なんだ」と感激し、いつかお会いしたいと。
 
道脇:
それもあって、対談のオファーをいただいたんでしたね。モデルハウスを訪問してみたら、頑強な構造や空調システムの考え方など、おもしろいつくり込みの家だなと思ったんです。
早田:
あのときは住宅内部を少し見てもらっただけで背景にある理論まで理解されていたことに、こちらが驚いてしまいました。
 
道脇:
早田さんはいつからローエネルギー住宅をつくっているのですか。
 
早田:
1997年に、温室効果ガスの削減を目指した国際条約・京都議定書が制定されましたが、原点はそこにあります。当時はまだ20代。「これからの住宅はCO2を削減できるものでなければ」と、気密断熱による省エネルギー化に着目しました。
そのうち海外からわざわざ輸入材を取り寄せて家をつくるハウスメーカーの在り方にも違和感を覚えるようになり、日本の気候に合っており輸送にかかるエネルギー負荷の少ない国産の材料を使うようになったんです。
道脇:
京都議定書は僕にとってもいろいろな意味でショッキングなものでした。幼少期から僕はほとんどの家事・炊事を担当していまして、母からゴミを分別すれば資源になり、循環させられることを教わりました。牛乳パックを開いてまとめる、空きガラス瓶を色分けするとか忠実に作業を続けていたから議定書にも興味を持ったんでしょう。
 
早田:
お互い、京都議定書をきっかけに持続可能な社会の必要性を感じとったわけですね。
 
道脇:
今は持続可能性やSDGsといった言葉があのときよりも世の中に広がっています。でも、それらが商業的なPRとかプロパガンダにも使われ、効果につながらないやり方になっていることもあるな、と感じていて。
 
早田:
たしかに。「地球にやさしい」といった表現があふれていますし。
 
道脇:
持続可能な社会をつくる大前提は、一人ひとりがちゃんと自分の頭で考えて行動することです。僕は実験で疑問を検証することもありますが……一般的にはそこまでするのはちょっと難しいですよね(笑)。信頼できるいろいろな有識者の情報を広く集めて、見比べて、自分の頭でかみ砕いて答えを出していく姿勢が大切ではないでしょうか。
 
早田:
そうですね。あらゆるものづくり企業が今転換点にいる。持続可能性とまじめに向き合わないと必ず限界が来るはずです。たくさん数を売って今だけ儲かればいい、という考えから抜け出す時期なのでしょうね。

常に問う、何のためにつくるのか

早田:
住宅業界にはまだまだできることがあります。環境を壊す材料の量を減らす。できるだけ長持ちする家をつくる。暮らしにかかるエネルギー消費を抑える。また、建築廃材の多さも業界が抱える大きな問題ですから、そこにもさらに取り組む余地がある。
 
道脇:
どれも大切なことです。低い負荷で資源を循環させるための合理的な道筋を、社会全体でつくっていかなければ。そのためにデジタルの力をものづくりに取り入れ、効率性を上げられるのではないか、と最近は考えていて。
 
早田:
面白そうですね。例えるならどんなものづくりなのでしょうか。
 
道脇:
例えば、道路や橋といった建造物などの締結部に使用すると、わずかな揺れやひずみのようなデータをリアルタイムで収集してくれるsmartNejiがそのひとつです。10年間以上かけて開発してきておりまして。
 
早田:
smartNejiが使われることで、負担がかかって壊れやすい場所もあらかじめ分かるようになりますね。
道脇:
その通りです。このsmartNejiが普及すれば修繕やメンテナンスの要否、実施タイミングなどを遠隔で把握できるようになりますし、最近増えている自然災害の対策も取りやすくなる。
最終的に目指している構想は、地球上のあらゆる建造物や乗り物などにsmartNejiをはじめとするsmartDeviceを搭載してモニタリングデータを取り、それを仮想空間上につくった “もうひとつの地球” にリアルタイムで反映していくんです。すると地球全体でいつ・どこで・どういう部品が・どのくらい必要になるのか、生産量などの予測ができるようになる。
 
早田:
余計な資源を消費しなくてすむ社会になるわけですね。それにしても、メタ空間のなかで地球規模のシミュレーションを行うなんて、スケールの大きい構想に驚かされます。
 
道脇:
もちろん実現には課題も多くて、正確なデータを把握できないと精度も期待できません。そもそも仮想空間に地球をつくるのも簡単ではなく、地球表面や海中、海底といったあらゆる場所の温度や圧力、変形、振動や流れ等を測らなければ。さらに、太陽や月など周辺の惑星との位置関係もデータに含めるべきで。それらには重力や気象条件などが影響してしまいますから。
 
早田:
壮大ですね。でも、真の持続可能な未来に向けた “最初の一歩” がこのsmartNejiなんですね。競争して市場のシェアを奪い合う形ではなく、無駄のない生産にシフトしていく。これまでの経済の在り方はもう続かないだろう、と考える立場として、とても共感します。
道脇:
社会は今も大量生産・大量消費型のものづくりで動いていますが、いつか環境負荷の代償を払わなければいけないと思うと、それは一見すると利益を得ているようで実際上は利益どころか負債を生み出しているようなものです。
 
早田:
たしかにローコストな住宅をたくさん販売すれば “今” の売上は伸びるはず。でも、これから日本の人口が減り、家づくりに関わる職人の数も減り、日本の経済も先行きが不透明となれば、修理もままならなくなるかもしれない。そう考えたとき、やはり100年長持ちする家をつくるのが最適解だ、という選択になったんですよね。
 
道脇:
ものづくりには、環境汚染を放置して労働者を安い給与で長時間働かせれば値段が下がる、という側面があります。そういう背景があったとしても、安く手に入るという理由で多くの人に売れてしまう。つまり真面目な企業より、ルールを守らない企業が経済的に強くなりやすい構造が社会にあるわけですが、早田さんの選択はその逆をいってますよね。
 
早田:
原材料にはお金をかけ、工場にも職人にもしっかりと対価を渡しています。会社を大きくしなければ実現可能だ、と思いまして(笑)。
拡大を重んじるより、信じるいい家をミニマムにつくりつづける。それが私の考える持続可能な経営の答えだったんです。

100年後の世界へバトンをつないでいく

早田:
先ほど日本の人口減少について触れましたが、道脇さんは100年後の日本社会はどんな姿になっていると思いますか?


道脇:
以前、世界の約100カ国の人口とGDPの推移を調べたことがありまして。どの国でもほぼ正比例の関係、つまり人口が増えるとGDPが上がるということが判りました。では人口が減るときもGDPは正比例のグラフに沿って落ちるのか、というとそうではなくガクンと急激な下降線を描くような形で落ちるのです。
 
早田:
それは大変ですね。日本の人口が急に増えることは恐らくないでしょうし。
道脇:
そういう急落に対処する手段として、僕は人口が減っても生産性を向上させればいい、と考えています。ひとり当たりの生産性が向上し、GDPを一定程度に維持することができれば、人数が減る分ひとり当たりの豊かさも増える計算です。


早田:
人口が減ったのに収入が維持でき、自由な時間も増える可能性があるという意味ですよね。それができたら、むしろ今より住みやすい社会になるかもしませんが、そんなことが実現できるのでしょうか。
 
道脇:
カギになる要素は2つあって、まずは適切なテクノロジーの導入です。例えばこれまで人が目視で行っていた道路や機械のメンテナンスを、センサー通信などの技術でデータを集め、AIで解析する形、いわば「テクノロジーの目」で効率化するとか。
早田:
なるほど。smartNejiの構想ともすべてつながってきますね。
 
道脇:
そうです。こういう効率化を進めるにあたっては、社会全体のバランスを見ながら人口減少に合わせた形に都市もダウンサイジングする必要が出てくるはずです。人のいないエリアに電線を引いて保守を続ける、といった方法は効率性が下がりますから、環境を破壊しない規模の人口で各地に集住するようなイメージ、というのでしょうか。
 
早田:
試算によると、100年後の日本の人口は4000万人台になると言われていますよね。それを初めて聞いたとき、私は人口3000万人くらいだったとされる江戸時代を想像したんです。今のお話を伺っても、そんなイメージが湧いてきますよ。
道脇:
京都議定書が制定された頃は、環境と経済は両立できず相反する、という論説が主流だったんですよね。でも僕はこの方法であれば、環境を守りながら生産性を上向きにできると考えていて。
 
早田:
たしかに楽な道のりではないでしょうし、先進国ではなくなるかもしれない。でも資源も食料も輸入していない江戸時代でも、日本という国はちゃんと維持できていたことを思うと不可能ではないように思えます。
 
道脇:
ただ、この仕組みのもうひとつのカギは、限られた企業や組織が儲けを独占しようとすると成立しない点です。国全体のバランスと環境への配慮を優先するから機能していくものなので、人のマインドも一緒に変えていかなくてはいけない。
 
早田:
旧来の資本主義の価値観とは相容れないということか。でも、そんな社会が実現したらきっとゆったり生きられますよ。日本は米や野菜が採れるし、魚が捕れる海や川もある。そこに長持ちする家があり、生活に必要なエネルギーが手に入れば、お金をたくさん集めなくても幸せじゃないか、と思うんですけどね。
道脇:
おっしゃるとおりで、生まれてたった40数年の実感でしかありませんが、日本は自分たちが長年守ってきたものを急速に失っているように感じます。それは自然環境しかり文化しかり。
 
早田:
仕事で日本各地に行くと、地方の土地や山にもどんどん海外資本が入ってきているのを実感します。それがダメという話ではないのですが、中には “一瞬のお金” と引き替えに手放す事例も見られるので、なんとももどかしいです。
 
道脇:
日本人が守ってきた自然や文化が、実は日本を守っていた、大和の民を守っていた、という見方もできると思うんですよ。しかし、ここ100年の間にそういったものを捨てたり、忘れたりが続いて、どんどん弱体化しているような。僕は、これからの持続可能な社会を考えるとき、縄文時代がヒントになると思っていて。
 
早田:
興味深いですね。どうして縄文時代なんですか。
 
道脇:
まず、どんなに短く見積もっても縄文時代は1万6千5百年以上続いたはずなのに、遺跡からは争いの痕跡が見つからないんです。出土した骨の腕の部分が折られていたり、頭蓋骨に矢じりの痕があったりするなど、戦闘の痕跡があるのは弥生時代に入ってからです。
 
早田:
誰かが独り占めしようとか、他から奪ってやろうといったことが縄文時代はなかったんですか。
 
道脇:
食料が十分にあり、水上を移動する操船技術や天文知識などを持っていて、足りないものは交易で補っていたようです。それに縄文人はおしゃれも楽しんでいたみたい。自然と共存し、奪わずに助け合って互いに共存共栄する、という文化や思想が当時の日本にはあって、私たちにも少なからず受け継がれてきたはずなのですが。
早田:
たしかに、日本のそういった精神が建物や生活様式にも反映されているように思いますし、他の国の人たちがそれを美しいと感じ、憧れや尊敬を持ってくださるのはうれしいことです。
 
道脇:
尊敬してもらう存在になることは、これから人口減少社会を迎えるにあたってとても大切です。仮に経済発展が今より鈍化しても、日本は豊かだ、美しい社会だと思ってもらえる持続可能な姿が実現できれば、海外から観光に来るでしょうし、戦意を持たれることもない。
そういう社会の在りようが世界に共有される「和化」、「大いなる和」化が起きれば、縄文時代のように争いのない世界をつくれる、と僕は本気で思っていて。
そこに向かう、ひとつの歯車としてよい形で回っていきたいな、というのが今の願いです。
 
早田:
私たちが目指しているのは、今日明日結果が出る類いのものづくりではないかもしれません。でも長く使われる「もの」として、確実に100年後の世界へバトンをつないでいくことができる。未来を生きる人々のまわりに豊かさを生みだし、地域によい影響を与えられる住宅をこれからもつくりつづけていきたいです。
PROFILE
株式会社NejiLaw 代表取締役社長
道脇裕

小学校を自主休学し、家事代行や漁師、とび職など様々な仕事を経験しながら、幼少期から続けてきた実験や発明に没頭。19歳のときに発案した「緩まないねじ」を社会に送り出すため、2009年株式会社NejiLawを設立し、代表取締役社長に就任。同年、日本MITエンタープライズフォーラム・ビジネスプランコンテストで最優秀賞を受賞したのを皮切りに多数の賞を受賞。現在も社会課題の解決を目指した革新的なものやシステム、AIなど様々な技術の発明を続けている。

WEB
PROFILE
株式会社WELLNEST HOME 代表取締役創業者
早田宏徳

左官職人からキャリアをスタートさせ、約15年間住宅会社に勤務。延べ3000件を超える家づくりに携わる。2008年にドイツへ渡り、街づくりや住宅の在り方、現地の職人事情などを視察。日本の住宅業界の更なる変革を志し、2009年に独立。以降、全国で年間200回を超えるセミナーや講演活動を住宅業界向け、エンドユーザー向けに実施。未来に住みよい社会を残すことを目的とした、ローエネルギー住宅の研究や普及活動にも力を入れる。

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