DIALOGUE
TALK WITH vol.1
―芝山さゆり×山中哲男 「問」から未来を探る―
人が暮らす最小単位の社会であり、家族の“巣”でもある住まい。TALK WITHでは、そんな心地よい住まいの先に広がる、よりよい暮らしに向かって走り続けるウェルネストホームの銘々がゲストを対談相手に迎え、最良の未来へと繋ぐヒントを見つけていきます。
ウェルネストホーム代表取締役社長 芝山 さゆりをホストにお届けする第1回目の対談。ゲストは、株式会社トイトマの代表取締役社長 山中哲男さんです。2020年に開催された日経フォーラムで出逢った際に、山中さんの持つスマートさや空気感に心惹かれたといいます。「関心ある“問”をもつことで熱と好奇心が生まれ、人間、世間など様々な“間”というタイミングが合わさった時、新しい一歩が自然と動き出す」を社名の由来とする株式会社トイトマ。
そこで今回は経営者であるお二人が抱いている「問」をキーワードに、さまざまな話題を伺いました。対談は、お二人の出会いの瞬間から始まります。
個性が持続可能な未来へつながる
芝山:
私たちは出会ったというよりも、偶然バチンと遭遇したという感じですよね。
山中:
そうそう。2020年の日経フォーラムの後の懇親会の場所が、僕が社外取締役を務めているバルニバービという会社が運営しているレストランで。そこでお話したのが最初です。
芝山:
「頭の回転が早い・表情がいい・話題が幅広い」の三拍子を持っている山中くんは、これまで見たことのないタイプ。鎌倉のモデルハウスを見に来てほしいとウェルネストホームの本を送ったら、それを片手に本当に来てくれて…。生真面目さにもやられちゃいました。
山中:
僕のひとつめの「問」にまつわるのですが、さゆりさんと最初の出会いにも関連するバルニバービで、僕が大きく関与した淡路島の地方創生プロジェクトがあります。バルニバービの創業者である佐藤会長がやりたいとスタートしたのですが、ここまでの大規模事業を自社ではやったことがないと。で、どうやったらいいかを考えてほしいと言われたんです。
芝山:
淡路島はサーフィンのメッカだったりと有名ではあるんですが、サーフィンをしてそのまますぐに帰って…と、訪れる人たちがお金を落としていくシステムがなかったんですよね。
山中:
地方創生でやらないといけないのは、経済活動に参加して稼ぐということ。例えば、露天風呂があって自然が見えて…という分かりやすい観光地ほど「前もこんな場所に来たよね」みたいに特徴がなく、しかも改築するお金がないからと古いまま。稼ぐ・儲けるっていうのは“悪”だと思われがちですが、稼がないと持続可能性がないんです。
山中:
だからこそ、事業を創る側の人間としては“どこにでもあるような平均化されているモノ・コト”は問題だし、それをどうにかしたいなと。個性や独自性こそが“本来の経済活動”なんですが、その目的に向かっていくためには、政治、行政、企業はどうすればいいのかー。こんな「問」を現在は抱いていますね。
芝山:
山中くんは、無から有を生むのが得意ですよね。
山中:
僕がやっているのは、地方再生ではなく地方創生のゼロイチなんです。しかも、ちょうどその話を持ちかけられたときに、国交省の社会資本整備政策課から「公的不動産だけで約70兆円分の遊休資産が余っている」というお話があり…。それを活用したいけれども進まないという相談を受けていたので、これらをどうにかしたら地方創生が加速するんじゃないかと思っています。
芝山:
今の話を聞いて、企業が持続するためには、順風満帆に正しく利益を出し続けることが大切なのだと改めて気付かされました。“世の中から必要とされ、選ばれる事業”とは、独自性を最大限に活かし、その地域に根付いて発展し続けることで未来に繋げて行ける事業ということですね。
分断する社会に、手を差し伸べる
山中:
先ほどの地方創生の話の続きですが、迷惑をかけたり搾取をして稼ぐのは絶対的に悪いことですが、誰かのために役立つものをつくって稼ぐことは大事だと思います。そこに僕のも
うひとつの「問」である「社会はなぜ分断するのか?」が隠れているんです。
芝山:
「社会の分断」とは?
山中:
僕は、日本にはチーム力や協調性が少ないと思っているんです。例えば、本来は同じ地域として盛り上げていかないといけないのに、隣り合うA市とB市が競い合うじゃないですか。「自分たちが儲けたい!自分たちに移住者を増やしたい!」と。
芝山:
確かに電気代やガソリン代の高騰や気候変動などの様々な社会問題があるけれども、それも「今だけ、金だけ、自分だけ…」の人間のエゴが起因ですよね。私は経営者としてもこの社会課題を解決していくことが夢だし、私たち世代の使命でもあると思っているんです。そういう意味では、どうしたらよりよい社会や暮らしをつくれるかという同じ目的を私たちは持っていますよね。
山中:
“協業”や“オープンイノベーション”と言っても、結局は自分たちのプラスになることばかり考えてバチバチと戦っているんです。どれだけ耳障りのいい言葉を並べても分断されているのが実情なので、そこを僕が繋いで、ひとつの事例をつくっていくのが事業の大事な在り方。課題が複雑化している世の中だからこそ、チームでやらなきゃいけないんです。
芝山:
いまの世の中って“人はどうあるべきか”という、学校の道徳の授業で習ったことが問われている時代だと思うんです。耳触りのよさで言えば「SDGs」という言葉も同じだと感じますが、とある老舗企業から「我々の会社は、何をしたらSDGsという言葉に紐づけた事業ができますかね?」と聞かれたことがあります。
芝山:
だから私は「創業者の方は、世の中に欠かせないものを生み出しています。そのエネルギーを紐解いたら、SDGsがそこに息づいていますよ」って伝えたんです。わざわざ改めて何かをしなくても、過去を振り返ることで本当に創業者や先代への感謝の気持ちがじんわりと湧いてくると思いますし、自分たちの理念を改めて確認し、深めるいい機会がSDGsなんですよね。
山中:
そうそう。だからこそ僕は「社会性」っていう言葉は、すごく危ないと思っていて。SDGsやサステナビリティという言葉の響きはいいし、社会性にとって誰も反対できないこと。けれども現実は、社会性を掲げながらも儲けている。そんなところに悶々とするんです。
芝山:
綺麗ごとだけでまとめた資本主義に違和感があると…。
山中:
ベーシックインカムのような制度があれば別ですが、社会性だけでは持続可能な経済は成り立ちません。現実では資本主義の中で格差が拡大していますよね。そんな二極化している資本主義の中で社会性を押し付けてしまうと組織は成長しなくなるし、維持もできなくなると思う。そうなると、まあまあ儲かる平均的なコンテンツの街ができあがるんです。
芝山:
山中くんは「この会社の困りごとを、どう解決してあげたらいいだろう…」と、いつも人脈や知恵を絞り出していますよね。
山中:
お互い持っていない得意領域がありますからね。僕から見たさゆりさんは「どうやったらできるのか」「どうやったらよりよくなるのか」を常に意識している印象です。
芝山:
それは、私は元々が学校の先生だったことも大きいと思います。あるとき障がい児学級を年度途中から担当したことがあるんですが、その中に言葉を発することも難しい聴覚障がいのお子さんがいたんですよ。
芝山:
私は音楽の先生で発声方法も学んでいたので、そこから口の動かし方なんかをその子にじっくり教えました。1年弱かかりましたが、その子が頑張ったおかげで奇跡が起きるんです。二年生の終わりに「さゆり先生」って言えたんですよ。これは私が20代前半のときのエピソードなのですが、この経験から私は誰にでも手を差し伸べ続けたいと決意したんです。
立ち止まることで気づいた、新しい視点
芝山:
実は、少し前に病気で入院していたんです。命をもう一回授けていただいたような、いい機会をもらったなと思い、今年はサウナにピラティスと、より健康を意識するようになりました。なかでも「睡眠の質の向上」は、健康に対しての「問」のひとつですね。1年の3分の2は出張などでホテル暮らしをしていますが、睡眠の質がウェルネストホームの自宅とホテルでは雲泥の差…。私は質のよい睡眠がとれないと翌日に響くタイプですが、山中くんは健康管理はどうしていますか?
山中:
同じく。僕も日付が変わるまでには寝ます。1日に違う業界のミーティングが8本以上あるので、頭を切り替えていかないといけないんです。
芝山:
山中くんは電車で移動をしているから、そこも体力に関係しているのかもしれませんね。あとは、お酒も飲まないですよね。
山中:
一滴も飲まない。二次会には行かず、帰ってすぐに寝たいんです(笑)。あとは、ストレスを溜めないことも意識していますね。
山中:
僕は20歳で起業して、最初の10年間はがむしゃらに突っ走りました。ただ、会社が成長するとともに、行きたくないミーティングや上手くいかない案件が増えたりで、自分を疲弊させていたんですよね…。そんな最中のお正月に帰省したら、母が私の目の前で倒れたんです。診断の結果は脳腫瘍。余命わずかと言われた僕は、株を手放し仕事も辞めて、父と交代で24時間看病を行うことにしたんです。
芝山:
これまでの生活とは180度違うものになったんじゃないですか?
山中:
そうですね。これまでの慌ただしい日常とは一変して、ベッドで眠る母に寄り添う日々だからこそ、自分の人生と向き合う時間を初めて持ちました。そこでスケジュールを見ながら過去を振り返ってみたところ、また会いたいと思う人とのミーティングや、やりがいを感じた仕事は楽しく成果も出ていたことに気づいたんです。だからこそ、今後はこの軸に沿って仕事を選ぼうと決めました。
芝山:
今後の軸にしたいと思った仕事は、仕事そのものと一緒に仕事をする人のどちらに魅力を感じましたか?
山中:
多分、両方だと思います。好きな人と一緒に携わった案件は、事業としても成功していたというこの軸は絶対にブレなかったので、今も仕事選びの際の指針にしているんですが、そうすることで全然ストレスが溜まらなくなったんです。
芝山:
トレードオフを突き詰めたということですね。私は一日一日のガス抜きが下手なんですよ。子育てがひと段落したからこそ、私にとってのいまの息抜きといえば、猫ちゃんを可愛がること。注いだ愛情の分だけ愛情を返してくれる猫ちゃんに癒しを求めているのだと思いますが、だからこそ子育て真っ只中の山中くんにはヤキモチを感じちゃいますね。
山中:
経営者の人たちは皆さん「上に立つ者には素直さが大事」と言いますが、それは子育ての中で子どもの素直な姿を目の当たりにしたことで、少し理解できたような気がします。
芝山:
そういえば、二年前にお父さんになった山中くんが、親になったことでどんな変化が起こったかも、気になっていた私の「問」のひとつです。
山中:
赤ちゃんのときの寝不足がとにかく大変で、仕事の集中力が若干下がりましたよ(笑)。さゆりさんの「問」の「睡眠の質の向上」にもつながりますね。
芝山:
わかります!私も10時間は寝たい人ですが、そういうわけにもいかないですよね。いまでも子どもと久々に会うと嬉しくて深夜まで話し込んでしまうのですが、次の日の朝に辛さを感じる日があります。
山中:
あとは子育てをする中で、自分の幅が広がりました。これまでは道中も仕事の電話をしていたんですが、子どもと歩くと普段行かない場所とかに行くわけですよ。これまでは背景でしかなかった街や世の中の景色を、子どもに見せてもらったというか。
芝山:
そういう話を聞くと、いいなぁって思います。
山中:
子育てをしていると経営にも共通点があると思うんですが、僕は「自立」をずっとキーワードにしているんです。自分で考えて行動できるように自立させるのってめちゃくちゃ大変。ルールを決めて「こうやりなさい!」って言う方が楽じゃないですか。けれども、相手の気持ちを尊重するとか、得意領域を見つけてあげて一歩踏み出させることが大切なんですよ。
芝山:
世の中の人が「じりつ」と聞くと「自律」を想像するはず。けれども、ルール化されて確実に仕事をこなす社員をいっぱい育てればいい会社かというと、それは違うと思うんです。社員それぞれが「自立」してお客様と向き合うことが重要だと考えているので、人と向き合うときには一辺倒ではなく、まずは相手を知りったうえで“どう伝えれば伝わるか”を考えて相手の目線に合わせて接することが大切ですね。
山中:
だからこそ、事業者もちゃんと自立して自分たちで稼ぐという循環を持たないといけないんです。「自分が!自分が!」と分断している場合じゃないなと。
芝山:
山中くんの「問」は、やっぱりそこに行き着くんですね。私は母親でもあるからか今回の対談を振り返ると、親になった山中くんの変化や健康にまつわるエピソードといった、生活や実体験から生まれた「問」がメインだったなと。ただ、この考え方はビジネスでも同じで、身近な瞬間から湧き上がる「なんで?どうして?」から私の疑問は芽生えるんです。
山中:
1人のヒトが持つ「どうしたらこの課題は解決できるのか」「どうやったら困っている人を笑顔にできるのか」という関心から、事業やプロジェクトの最初の一歩って生まれるんです。この関心事には「問」がセットで、逆に言えば「問」がないと何も始まらない。いつもは話が横に展開していく感じですが、今日は「問」を軸に一つひとつをグッと掘り下げることができたので、さゆりさんが普段から話している“暮らしの豊かさ”といったものが具体的に見えた気がします。
芝山:
“暮らしの豊かさ”について、私は子どもたちが健やかに育つ家は“外から守られるシェルター”でなければならず、しかも住空間は家族の共有部分だからこそ、例え子どもが反抗期であっても仲良く暮らせることが住まいには求められるんじゃないかなと。「大きな関心事=問」は、いつも目の前にあると思っています。
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