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DIALOGUE

TALK WITH vol.8
―早田宏徳×陶山祐司 白と黒への嗅覚―

 
 
人が暮らす最小単位の社会であり、家族の“巣”でもある住まい。TALK WITHでは、そんな心地よい住まいの先に広がる、よりよい暮らしに向かって走り続けるウェルネストグループの銘々が対談を行い、最良の未来へと繋ぐヒントを見つけていきます。
第8回となる今回は、ウェルネストホーム創業者であり、ウェルネストR&D代表取締役早田宏徳がホストを務め、ウェルネストホームコーポレート本部長 経営企画室長の陶山祐司を迎えました。
陶山は東京大学を卒業後、経済産業省を経て、VC(ベンチャーキャピタル)や社会起業の世界に身を置いてきました。成長産業で数多くの経営者と接してきた経験と比べても、早田は特殊な経営者に映ったと、彼は語ります。
お互いの歩みがどのように交差し、同じ未来を見つめるようになったのか。今回の対談では、創業者と経営企画室長の役職を超えて、ふたりが言葉を交わします。

異なるキャリア、重なる未来

早田:
この2月で丸8年になりますね。僕らが出会ってから。

陶山:
懐かしい。経営者が集まる勉強会でしたよね。当時、僕は経済産業省から転職して、ベンチャーキャピタリストとして活動していました。携わるのは成長産業ばかり。その点、住宅会社といえば成熟産業じゃないですか。だから、ちょっと縁遠いといいますか、経営が難しい業界の方だというのが早田さんの第一印象でした。

早田:
最初に会ったとき、陶山くん、僕にあまり話しかけてくれなかったですよね(笑)。たしか前年、VC(ベンチャーキャピタル)として宇宙開発スタートアップを支援して、100億円の資金調達を実現させたばかり。そんなイケイケの方だから、きっと住宅業界なんて興味がないだろうなと思った記憶があります。

陶山:
そう言わないでくださいよ(笑)。意気投合するのに時間はかからず、同じ2018年にはウェルネストホームに参画させていただいたじゃないですか。低燃費住宅から社名を変更した翌年でしたよね。

早田:
片や元キャリア官僚でいまをときめくVC、片や職人上がりで、成熟しきってしまった住宅業界。まったくの畑違いのふたりだけど、日本を良くしていきたいという志が一緒だったんですよね。日本を良くするために、スタートアップを支援しているのと、家を建てているだけの違い。お金とか、出世とか、名誉とか。そういうモチベーションで生きている人だったら飛び出しませんよ、せっかく入った経産省を。

陶山:
もともと、官僚の仕事を一生続けようとは思っていませんでした。経産省に入ったのも偶然なんです。

早田:
野球少年だったと聞きました。

陶山:
小学2年から大学2年までやっていました。守備位置はキャッチャー。全体を見渡してマネジメントをするのが、昔から好きだったのかもしれません。それが大学3年の夏になったら、そろそろ就職活動の時期。倫理学や哲学の大学院進学も視野に入れつつ、合同説明会に行ったところ、たまたま経産省のブースがあったんです。

早田:
官僚志望だったんですか?

陶山:
いえ、いろいろな会社を見た後で、経産省に出会った時には外資系のコンサルを考えていました。せっかくなら視野を広げられて、自分が成長できそうな業界がいいじゃないですか。合同説明会もそれが目当てだったのですが、経産省の担当者の話がおもしろくて、良い意味で期待を裏切られてしまったんです。「3分、いや15秒でもいいから話を聞いてください」というから渋々ブースに入ってみたら、2時間くらい耳を傾けていました。

早田:
いい先輩と巡り会えたんですね。

陶山:
経産省とは“経済”や“産業”のためだけにあるわけではないと。日本を良くするためなら、なんだってできる組織なんだと。半分本当で、半分誇張だったと、後になってからわかったんですけどね(笑)。ここで働けばやりがいが大きそうだし、自分も成長できそうだと思いました。運よく入省し、最初はコピー取りや資料作成といった雑用。80ページの資料を300部、印刷してホチキスで留めるというようなことからスタートしました。1年目の最後に東日本大震災があってからは、その緊急対応や、中長期のエネルギー政策の企画立案などを担当します。

早田:
陶山くんは優秀だから、2014年にやめなければ役職も上のほうになっていたんじゃないですか。民間企業の社長にあたる、事務次官にだってなれたかもしれない。

陶山:
いや、入省当時から「まだ組織に入ってもいないのに『事務次官を目指します』というのもおかしいじゃないですか」とは言っていました。ビジネスやアカデミックなど、いろいろな世界に対する好奇心も強いですし。日本を支える仕事をしているという実感こそありましたが、産業政策をやろうにも、ビジネス経験がないことに対して限界も感じてきました。外に出ないといけないという切迫感に駆られ、経産省を退職するに至りました。

早田:
外に出ないといけない感覚があっても、外に出たらどうにかなるっていう保証はどこにもありません。それなのに将来を約束されたレールから離れて、日本の未来を担うスタートアップをサポートするために、できたばかりの会社に入社してベンチャーキャピタリストになるなんて、とてつもないチャレンジだったと思います。

ゼブラ企業のマインドセット

陶山:
つねにチャレンジしているのは、早田さんのほうですよ。

早田:
僕ですか?

陶山:
ビジネスに対する嗅覚があります。考えて行動するというより、行動しながら考えていくというか。チャンスがあったらガツンと投資して、エンジンをかけていくじゃないですか。いち早くYouTubeに進出したのもそうですし、当時はチャレンジングともいえる東京出店にしてもそう。

早田:
たしかに、ウェルネストホームの全住宅に搭載している「Haiot System」が最たる例かもしれませんね。独自開発したAIによるホームエネルギーマネジメントシステムなんて、僕らの規模の住宅会社がやることではないでしょうから。いまだったら、当時のようにガツンと突っ込むなんてできません。

陶山:
創業経営者ならではの嗅覚。本当に絶妙な勘があると常々思っています。

早田:
そう、勘なんですよ。僕なんてただの勘ですから、全部(笑)。

陶山:
金融の世界は、基本的にゴールから逆算して考えます。どれくらいの期間で、どれだけのリターンが得られるのか。それを明確にしないと動き出せないものですから、早田さんの意思決定にはいつも刺激を受けています。実際、僕の講演資料なんかも、早田さんと出会ってウェルネストホームに参画する前と後では、ずいぶん変化していますよ。事業計画や逆算の重要性を説くものから、まず動き出すことが大切だと伝えるものに。

早田:
そう言ってもらえるのはうれしいですね。陶山くんだってVCで実績を残した後、日本にゼブラ企業の概念を持ち込みましたよね。政府が閣議決定する「骨太の方針」にだって「ゼブラ企業の創出・推進」が明記されたじゃないですか。

陶山:
ゼブラ企業を支援するZebras and Companyを2021年に共同創業したのは、じつは早田さんから受けた影響も大きかったんですよ。その背中を見ているわけだから、自分もなにかやらなければいけないなと。それまで僕は、行動へ移す前に考えすぎてしまうきらいもあったんですけどね。

早田:
ゼブラ企業について今一度、教えていただけますか? 社会課題解決と経済成長の両立、長期的な視点などを謳うスタートアップを指しますよね。白(社会性)と黒(経済性)のバランス、群れ(地域)で共存して生きることなどからシマウマ(ゼブラ)と聞いたことがあります。

陶山:
はい、早田さんの言葉どおりです。じつは、特別なことはなにもないんですよね。当たり前のことを、新しい言葉で語っているだけかもしれません。お金だけでなく、それ以外の要素も大事にしましょう。目先のことだけでなく、子どもたちの世代のことも考えましょう。株主やオーナーのことばかりでなく、関わってくれる全員のことを大切にしましょう。本来あるべきことを、ちゃんと意識しましょうというだけの話。

早田:
2023年にZebras and Companyの代表取締役を退任するまで、出資先にはどんな企業がありましたか?

陶山:
最初に出資したのは、福島県の国見町という8,000人の町を拠点とする企業でした。規格外品の桃の販売からスタートした後、廃棄されていた柿の皮を利活用してデリケートゾーンをケアする化粧品を展開していました。その地域の方々が持続可能に暮らしていけるように農家さんたちの所得の向上、未利用資源の活用に取り組むとともに、創業者自身の経験を踏まえて働く女性の健康課題にも取り組んだり、重要な経営指標として従業員の方々の所得を掲げて国見町で最高水準を目指したりと、まさにゼブラ経営の参考事例。(1)社会性と経済性を両立し、(2)オーナーだけではなくて関わっていただける方みんなのことを考え、(3)短期的視点だけではなくて長期的視点も持っていました。

早田:
住宅業界にいる身からすると、ゼブラ企業のようなムーブメントは縁遠そうですね。

陶山:
意外に思われるでしょうが、インフラ系の事業者のほうがゼブラ企業の理念と相性がいいんですよ。まちづくりはお金があったら成功するわけではありません。ハード面の整備はもちろん、人材育成、合意形成には時間がかかるもの。10年、100年という単位のマインドセットをもった起業家が求められています。スタートアップやVCの世界だと、短期的に急成長して世の中にインパクトを与えるのが役割とされていますが、それだけではない経営も当然あってしかるべきですから。

早田:
住宅業界も目先の利益ばかり追いかけています。建てた瞬間が資産価値のピークのような新築が絶え間なく建てられていますから。ボロボロになったら、手放されて、取り壊し、再び新築を建てるという循環サイクル。子どもや孫にも受け継がせられる、100年もつ家を増やさないといけないと、僕はずっと訴えています。

陶山:
マインドセットは、経営者によってまったく異なりますよね。住宅をどんどん建てて、経済的に成長していくのも、もちろん悪いことではありません。お客さんに求められているということですし、いま儲けられさえすればいい、それ以外の社会的投資なんてありえないという態度の経営者も少なくありません。ただ、僕はそういう人とはパートナーシップを組みたくないと思ってしまいます。その点、早田さんはよほど特殊に映ったんですよね。住宅を社会全体の資産として捉えるんですから。

ゼロイチ企業のポテンシャル

陶山:
でも、僕らふたりとも、シマウマっぽくはありませんよね(笑)。ホワイトタイガー的だなと思っていました。日本を良くしたいという社会的な動機に偏り、理想主義的。属人的で再現困難なところからも、シマウマというよりホワイトタイガーが近いのかもしれません。

早田:
属人的で再現性が低いというのは、耳が痛いところでもありますね。ウェルネストホーム、すなわち僕は、ゼロイチが圧倒的に得意。でも、それをなかなか100まで広げていけないのが、長らく課題としている点です。

陶山:
早田さんのようなスピード感でここまで会社を大きくしてきた経営者なんて、ほとんどいませんよ。ストリートファイトのように実地で勝ち上がってきたといいますか、頭じゃなくて体でぶつかりながらビジネスをしてきましたよね。結局、早田さんはどこまで行っても創業経営者、イノベーター。どんどん新しいことにチャレンジしてもらいつつ、会社としては役割分担を進めていけば、もっと成長できるポテンシャルがあると僕は思っています。

早田:
だから、陶山くんのように優秀な人に参画してもらい、経営企画室長を任せられているのは、本当に助かっているんですよ。

陶山:
コーポレートの責任者として、全体を見渡しつつ、なんでもやらせてもらっています。とくに財務、総務、政策・制度、人事の立案などは、まさに僕が得意とする範囲。幅広い仕事を担当しながら感じるのは、ウェルネストホームには多種多様な人材がいるということです。

早田:
それは本当にご縁があってのことですよね。上場企業の経営企画から転職してくれた人もいれば、たまたまTVで知って応募してくれた人もいます。AI、IT、医療系など、畑違いの領域から入社してくれる人も増えてきました。

陶山:
儲かりそう、安定しそうという動機で入社してくる人は、ほとんどいないような気がします。

早田:
だって、儲けを度外視したことばかりやっていますから(笑)。

陶山:
みなさん、ビジョンに強く惹かれて、ウェルネストホームで働きたいと思ってくださるんですよね。成熟した住宅業界のなかで、一般的な経済合理性をいったん傍に置いて、ハイクオリティな家づくりをすること。100年だって持続可能な家を増やすこと。日本のため、地球のためを追求すること。早田さんのビジョンがあるから、これだけ人材が集まっているのではないでしょうか。

早田:
ありがたいことです。いまは社員を育てながら、ビジネスでは夢の種をたくさん蒔いている時期。その芽というのは、半年や1年のスパンで出てくるものではありません。陶山くんが言うとおり役割分担を進めながら、芽が出るまで耐えることが大事な時期なんでしょうね。世代交代を図りつつ、僕は新しいビジネスを考えています。遠くない将来、東南アジアにチャレンジしたいんですよ。

陶山:
8年前から話していましたよね。

早田:
ええ、それがやっと、ビジネスとしての戦い方が見えてきました。ただ家を建てる、建物をつくるというやり方はしたくありません。武器となる技術でチャレンジすることで、東南アジアにもフィットするような気がするんです。もちろん持続可能な社会、気候変動への対策という軸足はずらさないまま。

陶山:
僕は、そこにもウェルネストホームのポテンシャルがあると思っていました。気候変動の対策は大きくふたつに分けられるのですが、緩和策と適応策をご存知ですか?

早田:
いえ、教えてください。

陶山:
気候変動や地球温暖化に対して、CO₂排出量削減などにより、それが起きないようにするのが緩和策。一方、気候変動などを前提にし、対策しようというのが適応策です。

早田:
そうすると、ウェルネストホームの家は緩和策でしょうか。エアコンいらずで電気代を節約するとともに、CO₂排出量を削減することができます。

陶山:
ええ、それは間違いありません。でも、このふたつは、表裏一体になることもあるんです。これまで緩和策ばかり語られてきましたが、気候変動が避けられない以上、適応策も求められるようになるでしょう。夏は涼しく、冬は暖かいのが、ウェルネストホームの家の快適さ。日本はもちろん、東南アジアも気候変動の影響が不可避となるなかで、僕らの家づくりは適応策としてもニーズがドッと高まっていくのではないでしょうか。

早田:
緩和策と適応策、なるほど。こういう話ができるのも、陶山くんがいてくれて心強い部分ですよ。もういっしょに働くようになって8年、いつしか経産省の倍の期間になりましたね。

陶山:
VCにいたのも4年、Zebras and Companyも準備期間含めても4年ほどですから、ウェルネストホームがいちばん長いキャリアになるなんて、僕もびっくりですよ(笑)。

早田:
育ちはまるで違いますが、僕らの根っこにある志は同じ。これから先、お互いに変化もあるでしょうね。でも、日本を良くしたいという志は変わりませんから、これからも同じ方向に向かって歩んでいけることを確信しています。

#ゼブラ企業 #会社経営 #人とのつながり #継承 #持続可能な社会
PROFILE
株式会社WELLNEST R&D 代表取締役
株式会社WELLNEST HOME 代表取締役創業者
早田宏徳

左官職人からキャリアをスタートさせ、約15年間住宅会社に勤務。延べ3000件を超える家づくりに携わる。2008年にドイツへ渡り、世界水準の住宅性能に衝撃を受ける。日本の住宅業界の変革を志して講演活動を行う最中、東日本大震災をきっかけに命を守る、環境に配慮した住宅で社会を変えるため、2012年ウェルネストホームの前身となる低燃費住宅を起業。現在は独自開発のAIを搭載したHEMS(Home Energy Management System)や、脱炭素建築の集合住宅による、持続可能なまちづくりに携わるウェルネストR&Dの代表も兼任している。

PROFILE
株式会社WELLNEST HOME コーポレート本部長 経営企画室長
陶山祐司

東京大学卒業後、経済産業省に入省。資源エネルギー庁等で震災対応や政策立案に携わった後、VC(ベンチャーキャピタル)に参画し、数多くのスタートアップ支援を手掛ける。2018年、創業者の早田宏徳と志を同じくしてウェルネストホームに参画。現在は管理部門の責任者として経営企画・人事・財務等を統括する。そのかたわら、社会性と経済性を両立する「ゼブラ企業」の概念を日本に広める活動を推進し、持続可能な社会基盤の構築に尽力している。

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