Wellnest Home

INTERVIEW

VOICE FROM vol.6
―石川義和 暮らしの媒体としての家づくり―

ウェルネストホームが目指す、未来の子どもたちに向けた持続可能な暮らしとまちづくり。そこで私たちと理念を同じくし、丁寧な時間と暮らしを育むヒト・モノ・コトから、最良の未来へとつなげるための共通項を見つけていきます。
今回登場する石川義和社長は、百年近くにわたり香川に根ざしてきた石川組の3代目であり、ウェルネストホームの副社長でもあります。腕利きの職人たちを束ね、妥協なき家づくりに取り組んできた歩みを振り返るとき、分水嶺となったのが創業者の早田宏徳との出会いでした。

香川に根ざした 泥まみれの土根性

「創業者の口癖だった言葉に『土根性』があります。読み方は『どこんじょう』。全国区の会社もあれば、グローバルに展開する企業もありますが、僕らは地元の方々のためにあってこそ。香川に根ざして、泥にまみれて、がんばっていこうという気持ちを込めています」
企業理念を穏やかな口調で教えてくれたのは、石川組の3代目である石川義和社長です。香川県西部にある観音寺市で創業したのは1931年。地域に支えられることおよそ一世紀、公共土木工事や住宅の建設に携わりつづけてきた老舗企業です。
「建設工事っていうのは、結局のところ土なんですよね。あとは木とか、石とか。地元の自然素材をもとにつくりあげていくもの。目立たなくても、この土地に役立つ組織でありたいと思っています」
地域に根ざした家づくり。そう聞いて、頭に浮かぶのはどんな風景でしょうか。北海道であれば、落雪被害防止のためのフラットルーフに、室温低下を防ぐ玄関フードや風除室。沖縄県なら、自然災害に強い鉄筋コンクリート造りに、風の抵抗を抑えやすい陸屋根などが思い浮かびます。
では、瀬戸内の穏やかな気候に恵まれた、温暖少雨な香川県ではどんな家づくりが受け継がれてきたのでしょうか。
「どちらかというと、意匠が優先される土地かもしれませんね。重視されるのは、見た目の華やかさ。岡山とともに『晴れの国』と呼ばれ、昔から災害が少ないですから。人口のわりに、モダンなデザイン住宅がたくさん建てられていると思います」
近年の瀬戸内国際芸術祭の成功に、古くは「デザイン知事」と称された金子正則元知事の尽力。画家の猪熊弦一郎、彫刻家のイサム・ノグチ、ウッドワーカーのジョージ・ナカシマなどを輩出し、または惹きつけてきた香川県は、いまや「アート県」としても知られています。
「そうした土地だから、僕らもデザイン性に強いチームを揃えていました。デザイナー、設計士、コーディネーターなど。地元の木材にこだわるほかは、お客さまの夢を叶えた家づくり、お客さまの暮らしを彩る家づくりとして、どんな要望も聞き入れるようにしていました。たとえば、このあたりは夕日がすごくきれいに見えるエリアですから、リビングを大開口窓にして、讃岐富士とともに鑑賞可能にするというような。なんでも要望に応えていたら、お客さまに喜ばれるし、感謝されるから、僕らもうれしかったんですよ……まあ、ウェルネストホームの早田宏徳さんと出会うまではの話ですけどね」

意匠ありきの家づくりから 未来のために

石川社長と早田の出会いは2010年頃に遡ります。多い年で年間45棟のデザイン住宅を完工していた石川組ですが、頭を悩ませていたのが価格競争。競合会社の増加とともに、単価が下落するようになっていました。
そこで石川社長が参加したのが、早田による住宅営業支援のセミナーだったのです。
「話を聞いてみると、早田さんは本来、売るのではなく建てるほうが専門というじゃないですか。香川でこういうデザイン住宅を建てていると伝えたら、言われてしまいました。『石川社長、見てくれだけの家を売っていたら、世の中を不幸にするよ』と。話を大げさに盛っているわけではありませんよ。『住宅屋がお客さんを不幸にして、どうするつもり?』と言われたこともはっきりと覚えています」
施主のあらゆる要望に応える家づくり。それは一見すると、理想的な住宅建設のように思われます。しかし、たとえばリビングに大開口窓があると、デザインや眺めは良くても、断熱性は低くなるもの。それだと外気温の影響を受けやすく快適でないばかりか、壁内や天井裏などで内部結露が発生しやすくなり、家の耐久性が損なわれていきます。柱などの腐食、シロアリ被害、構造材の劣化など。いくら引き渡しのときに喜ばれようとも、将来的には施主のデメリットとなる要素が潜んでいるのです。
「意匠ありきの家と、長持ちさせることを考えた家。どちらが真にお客さまのことを考えているかといえば、後者なのは明白でしょう。早田さんは断言していました。家は長持ちしなければいけないと。より深く知るにはドイツのフライブルクがいちばんとも言うから、その年末には2週間ほど現地に行きました。早田さんの盟友である環境ジャーナリストの村上 敦さんに案内してもらい、いろんな経験をさせてもらったんです」
ヴォーバン住宅地のあるフライブルクは、早田やウェルネストホームにとって原点といえる土地です。このとき、石川社長にとってドイツ行きは3回目。瀟洒な街並みも、洗練された暮らしも、過去2回の観光旅行で経験していました。それでもなお、2週間の視察で受けた衝撃は大きかったようです。
「まず驚いたのが、建築の理念が日本とまったく違うこと。たとえば、なんのために家を建てるのか質問するとしましょう。日本ならお客さまのためであり、自分が生活していくためというのが一般的。僕らの会社であれば、誇りをもって地元のために家を建てています。それがドイツだと、国のためだとみんな回答していました。大工なり、板金工なり、現場の職人が口々に言うんです。国のための家づくりだから、長持ちするのも、省エネなのも当たり前。自分たちの仕事によって国を良くしていけるという自覚がありました。あくまで技術や丁寧さなら、日本の職人のほうが明確に上ですよ。日本の職人の腕は世界一ですから。でも、建築を考えるうえでのスケールや先進性は、ドイツがはるかに先を行っていました」
さらに石川社長の目を引いたのが、フライブルクの暮らしぶりです。何百年と受け継がれてきたアパートで暮らすことに対して、住民たちはどこか誇らしげでした。これが日本では、築古アパート暮らしとなるとネガティブな連想がされてしまいます。新しいデザイン住宅を次々と手がけてきた石川社長にとって、新築よりも古い家を大事にする暮らしは、ちょっとしたカルチャーショックのようでした。
「価値観からして違うんですよね。もちろん、家を何百年と保つには、細かなメンテナンスが欠かせません。だから、フライブルクの人々は頻繁に家の手入れをしていました。掃除であれば年に一度の大掃除にまとめるのではなく、毎日なり、毎週なり、ちょっとずつ。庭の植栽の整備や壁の塗り替え、階段の軋みの補修なんかも、人任せにするのではなく自分たちの手でやっていました。それも家族総出なんですよね。家をメンテナンスする習慣があるおかげで、家そのものはもちろんのこと、家族のコミュニケーションも保たれていくように思います」

妥協なき家が果たす 媒体としての役割

石川社長は早田と出会い、ドイツに渡り、これまでの家づくりを顧みることになったと話します。2012年にはウェルネストホームの前身、低燃費住宅を早田とともに創業して副社長に就任。第一号のモデルハウスは高松市に建てられました。
「試しに24時間をそこで過ごしてみたところ、それまで建ててきた家とは睡眠の質がまるで違いました。これも高気密・高断熱のおかげ。寝具、食事、ライフスタイルなど、なにかしらを改善して睡眠の質を良くしたい人は多いでしょうが、いちばん劇的なのが家ではないでしょうか。どうせ建てるのなら、最高性能を発揮できる家のほうがいいですし」
そして、低燃費住宅の第一号の引き渡し先となったのも香川県のお客さまでした。
「じつはそのお客さまも、引き渡してから見違えるように体調が良くなりました。ご家族に見られたアトピーの症状が、半年もしたらほとんど全快。それまでの住まいにきっとハウスダストの問題があったのでしょう。ホコリやダニ、湿気……睡眠に限らず、家づくりは住む人の健康をも左右するんですよね」
高気密・高断熱の重要性を実感した石川社長は後年、自らの住まいの断熱改修にも取り組みます。築40年のコンクリート造りの家を建て直すのではなく、長持ちするように改築。壁を薄くし、キッチンやトイレ、風呂などを優先することが日本では一般的にもかかわらず、断熱材やサッシに予算を投じました。
「おかげでぐっすり眠れるようになったほか、風邪を引かなくなったと思います。同居している80代の両親も、頻尿や腰痛が治り、日本舞踊を習い始められるほど元気になりました。あと変わったことは……そうだ、音楽の聴こえ方がずっと良くなりました。個人的な話になりますが、僕は音楽が趣味。家でスピーカーを通して聴く時間を豊かなものと捉えています。ただ、本来はスピーカーによって聞こえる音なんてわずかなもの。床や壁、天井から反響して耳に届くのが音の大部分を占めます。だから、家がペラペラの木造住宅ではなく、しっかりした造りになればなるほど結果的に、反響による音楽の聴こえ方もより良くなっていくのです」
最後に思いがけず趣味の話……と思いきや、ここには石川社長の住宅の捉え方のヒントが隠されていました。
「上質な音楽を聴くために。あるいは、健康的に暮らすために。なにか目標のためにあると考えると、家ってまるで媒体のような存在だと僕は思います。引き渡しがゴールのように錯覚してしまうから、つい見た目に走ってしまうのでしょう。そうではなくて、家族との豊かなコミュニケーションや、追求したい趣味など、理想の暮らしに向かうための媒体として捉えたとき、 本来あるべき家の姿が見えてくるのではないでしょうか。それが結果的につながっていくはずです。長持ちする家に」
#建築 #住宅 #地域に根ざした家づくり #ドイツ #高性能住宅 
PROFILE
株式会社石川組 代表取締役
株式会社 WELLNEST HOME 取締役副社長
石川義和

家業である石川組に入社し、住宅事業の転換を推進後、高性能住宅の重要性を痛感。早田宏徳と出会い、2012年にウェルネストホームの前身となる低燃費住宅を共同で設立し、現在まで副社長を務める。「30年で建て替え」という日本の住宅の常識に疑問を抱き、孫世代まで住み継げる長寿命住宅の普及を使命に、現場品質の維持と職人育成に力を注ぐ。

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