Wellnest Home

PROJECT

暮らす、考える。そして街をつくる。
―ニセコミライプロジェクト #1(前編)―

株式会社WELLNEST HOME
ニセコミライプロジェクト
パウダースノーのゲレンデが国内外のスキーヤー・スノーボーダーを魅了する北海道ニセコエリア。3つの町で構成される観光圏ですが、その中の一つニセコ町では「ニセコミライ」と呼ばれるSDGs街区づくりのプロジェクトが行われています。
ウェルネストホームがサポーターとして取り組む官民連携のまちづくり。街全体がSDGsに丸ごと包まれる実験的なプロジェクトのいまを追います。

羊蹄山のふもとに種を蒔く

冷たく澄んだ空気を胸の奥まで吸い込めば、頭がスッキリと目覚める。
2023年、冬。町のシンボルである羊蹄山(ようていざん)は、この季節にしては珍しく全貌を見せてくれました。
 
ここは、北海道虻田郡ニセコ町。
コンドミニアムが立ち並び、国内外の富裕層が訪れる。高級リゾートとして成功したニセコには、そんなイメージがすっかり定着したものの、スキーリゾートNISEKOを抱えるのは倶知安(くっちゃん)町。NISEKOの名を冠するニセコ町は、羊蹄山に見守られた人口5000人余りの静かな農村地帯とあり、今日も時間がのんびりと流れています。
そんな小さな町を訪れた理由は、ここで取り組む持続可能なまちづくりを、自治体や建築関係の皆さんに視察してもらうため。プロジェクトの名は「ニセコミライ」。既にまちづくりは7年目に突入し、2026年には第1・2工区が完成予定です。
プロジェクトの中核をなすのは、ニセコ町・地域事業者・一般社団法人クラブヴォーバンの出資により2020年7月に設立された「株式会社ニセコまち」。官民一体でまちづくりを進める“第二役場”ですが、この地域主体のまちづくりに新顔のウェルネストホームが参画するきっかけは、2021年春に完成したニセコ町役場新庁舎への技術アドバイスが大きいといえます。
ニセコ町では新庁舎の建設にあたり、当初は再生可能エネルギーによる高性能かつ高額な設備を考えていたのだそう。しかしながら町の予算は限られています。再生可能エネルギーを導入すれば、初期費用はもちろん15年ほどで高額なメインテナンス費も必要になることでしょう。
既に庁舎は築50年以上。新庁舎も数十年という長いスパンで使われることを考えると、後付けが難しい高断熱を最優先したほうがいいと私たちは考えました。設備は後からいくらでも付け足すことができるのだからー。

そこで私たちは何度もなんども町に通い、職員や町民と対話を重ねました。

耐震性の問題から新庁舎の新築移転計画が持ち上がったそうですが、それ以上に驚いたのは、職員が冬の寒さに震えながら働いていること。訪れるたび、この建物は“不健康”だと感じたほどです。
 
季節はめぐり、生き生きとした春の羊蹄山が迎えてくれたころ。「雪深い町に暮らす人々に高断熱・高気密住宅の技術を体感してほしい」というシンプルな想いを汲み取ってもらえたのか、私たちが提案したプランに町が大きく方向転換したのです。
ニセコ町の一員になった。持続可能なまちづくりの種を蒔いた。そんな気がした瞬間でした。

誰のものでもない自然

身を震わせる視察団と共に新庁舎に足を踏み入れると、まるで凍てつく冬から、うららかな春にタイムトリップしたよう。皆さんにニセコ町まで足を運んでもらった理由は、この不思議な気分に浸る瞬間を味わってもらいたかったからなのです。
「ぜひ今度は晩秋に来てみてください。無暖房でも過ごせるのでびっくりすると思いますよ。しかも新庁舎は旧庁舎の倍の広さなんですが、以前より電気代は安いんです」
まるで町の責任者のような顔で新庁舎を案内しているものの、私たちがニセコ町の一員になれた気がしたのは、新庁舎の建設が決まったときでしょうか。株式会社ニセコまちへの参画もこの間に決定し、ウェルネストホームとニセコ町は不思議な縁でつながったのです。

みんなの“理想郷”を、官民一体でつくるー。
傍から見れば、ニセコミライは夢のような計画かもしれない。でも、ニセコ町の人々なら成し遂げられそうだと私たちは感じていました。
その理由は、ニセコ町にゆかりのある文豪・有島武郎氏の想いが町に受け継がれているためです。

「一個人の利益ばかりのために、個人によって私有さるべきものではありません。(略)君たちは『相互扶助』の精神で力を合わせて生きていってほしい—」

この言葉は、有島氏が羊蹄山の麓に開いた農場を現・ニセコ町の全小作人に無償で解放した際に、町民に残した強くやさしいメッセージ。100年以上を経たいまも、ニセコ町の重要なキーワードだといいます。
2001年。ニセコ町は「住民参加」と「情報共有」を町のあらゆる仕事を進めるうえでの基本ルールとした、全国初となる「まちづくり基本条例」を制定しました。その中には「相互扶助」の精神が、しっかり息づいています。
国連サミットでも「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、持続可能の意識は少しずつ広がっています。けれどもニセコ町が考える持続可能は、経済の自立や自然環境の継承といった単純なことではありません。
暮らす人々が街のことを考え、まちづくりに参加する。そんな自治意識こそ、持続可能なニセコミライになくてはならないエッセンスなのです。
 
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